秋の暮誰まことよりさびしきぞ
おそはれし夢よりつのる夜寒哉
秋風をあやなす物か赤とんぼ
引かひもなきや鳴子のばらゝ黍
落栗や翌の命も山の奥
水よりや染けん岸のした紅葉
見るが内に霜置月のもみぢかな
うつりあし冬の来ぬ間に今朝の霜
行秋や雲はあはれに水はかなし
風たへて小春ごゝろに秋くれぬ
初しぐれ自在の竹に吹か ゝれ
しぐれけり土持あぐる芋がしら
何所やら花の香すなり小夜時雨
淡路より時雨もすなり月も照
茶のはなやありとも人の見ぬほどか
ちやの花のからびにも似よわが心
そばかりやよごれし袖もなつかしく
雪前や岡の月夜に大根引
忠度の腕これ見よと大根引
三日月に行先暮る ゝ枯野哉
茶の木見て麦に取つく枯野哉
木がらしや二葉吹わる岡の麦
氷夜や畳にしぶる上草履
あぢきなき果を添水のこほり哉
冴かへる空音は星かさよ千どり