雲雀野や筑紫二郎は一とうねり
沢水にうつりすまし猫柳
谷藤や揺りかへしつゝ風移り
干蕨山家の春は尽きにけり
幟立つ蕨穂杉穂の里曲かな
掌に支へる岩や清水吸ふ
満山の芽杉かぐはしほとゝぎす
温泉のがたがた橋や蛍狩
花桐やがらがらゆるみ竹廂
簗の水躍つて竹を高走り
杣が路頬弾く草のいきれかな
谷杉に燻る日のこり一と夕立
どよむ瀬の上ヮ響きして河鹿かな
鮎桶や水玉おどらし馳けり担き
耶馬渓を上りつめたる帰省かな
ちか道は沢深みかも葛の花
桔梗やさわやさわやと草の雨
あへなくも鎌にかゝりぬ葛の蔓
提灯に尾いて言なし虫時雨
秋晴や頂上にして褥草
真葛原とみに瀬ひゞく風変り
山女釣真葛が谷へ没し去り
大川を斜めに断てり下り簗
山風に帑ひるがへり簗の秋
谷川や障子を洗ふ堰づくり
乱菊や蜑が伏屋の網まがき
礁の間に長き舳や海鼠舟
干柿やまた一とせの山家住
背袋にあまる手斧や年木樵
衝立の金おとろひぬ河豚の宿
海鼠突き波のたゆたに伏眼鏡
なまこ舟礁越す波に漕ぎうつり
浜垣に鴎しけとぶ霰かな
揚げ舟や菜も干しかけて高舳
探梅や奥の岩戸を心あて
風篠にこたへきらめき山椿
燈台の根礁がゝりに和布刈舟
鶯や柴もひたぬれ歯朶の雨
白桃に笊の魚介やみづみづと
蜑が戸や浪もひゞかず葱の花
舷に礑と光りつ和布刈鎌
和布を刈るや身をさかしまの片手櫂
日ねもすの山ほとゝぎす来そめけり
漲ぎれる四方の田水や時鳥
蝦たもをかけて散らしぬ茨の花
舟板に撲たれ横ふ鱸かな
田火らの立ちゐすくみや大夕立
南風や潮待ちならぶ四ツ手小屋
提灯に西日つよけれ涼み舟
萍の西日の亭となりにけり
多々羅浜宵の花火の音すなり
簗打ちぬ堰の杉葉の青々と
秋雨や窓のけしきの灯りたる
茸山に近づき上るこみちかな
大岩に布団干したりでゆの谷
いつまでも菊さかせたり河豚の宿
鉤先にもんどり打てるふくとかな
うすうすと脊山も染まり紅葉寺
露の門送り提灯待てるなり
訪れや港がゝりの船の春