和歌と俳句

齋藤茂吉

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悲報来

ひた走る わが道暗し しんしんと 怺へかねたる わが道くらし

すべなきか をころす 手のひらに 光つぶれて せんすべはなし

ほのぼのと おのれ光りて ながれたる を殺す わが道くらし

氷室より 氷をいだし 居る人は わが走るとき ものを云はざりしかも

氷きる をとこの口の たばこの火 赤かりければ 見て走りたり

死にせれば 人は居ぬかなと 歎かひて 眠り薬を のみて寝んとす

赤彦と 赤彦の妻 吾に寝よと 蚤とり粉を 呉れにけらずや

罌粟はたの 向うに湖の 光りたる 信濃のくにに 目ざめけるかも

諏訪のうみに 遠白く立つ 流波 つばらつばらに 見んと思へや

あかあかと 朝焼けにけり ひんがしの 山竝の空 朝焼けにけり

先師墓前

ひつそりと 心なやみて 水かくる 松葉ぼたんは きのふ植ゑにし

しらじらと 水のなかより ふふみたる 水ぐきの花 小さかりけり