和歌と俳句

齋藤茂吉

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青山の鐵砲山

赤き旗 けふはのぼらず どんたくの 鐡砲山に 小共らが見ゆ

日だまりの 中に同様の うなゐらは 皆走りつつ 居たりけるかも

銃丸を 土より堀りて よろこべる われべの側を 行き過ぎりけり

青竹を 手に振りながら 童子来て 何か落ちゐぬ 面持をせり

ゆふ日とほく 金にひかれば 群童は 眼つむりて斜面を ころがりにけり

群童が 皆ころがれば 丘のへの 童女かなしく 笑ひけるかも

いちにんの 童子ころがり 極まりて 空見たるかな 太陽が紅し

射的場に 細みず湧きて 流れければ 童ふたりが 水のべに来し

折に触れて

くろぐろと 円らに熟るる 豆柿に 小鳥はゆきぬ つゆじもはふり

蔵王山に 雪かも降ると いひしとき はや斑なりと いらへけらずや

ゴオガンの 自画像みれば みちのくに 山蠶殺しし その日おもほゆ

水のうへに しらじらと雪 ふりきたり 降りきたりつつ 消えにけるかも

雪ふる日

かりそめに 病みつつ居れば うらがなし 墓はらとほく つもる見ゆ

現身の わが血脈の やや細り 墓地にしんしんと つもる見ゆ

あま霧し ふる見れば 飯を食ふ 囚人のこころ われに湧きたり

わが庭に 鶩ら啼きて ゐたれども こそつもれ 庭もほどろに

ひさかたの 天の白雪 ふりきたり 幾とき経ねば つもりけるかも

枇杷の木の 木ぬれに雪の ふりつもる 心愛憐み しまらくも見し

さにはべの 百日紅の ほそり木に 雪のうれひの しらじらと降る

天つ はだらに降れど さにづらふ 心にあらぬ 心にはあらぬ