広場なる花売娘牡丹抱き
曇りつつ大英帝国馬鈴薯の花
薔薇の門一ツづつもち住まへけり
烏麦怒涛のごとく荒び熟る
惨として大英帝国夕焼す
家二つ夕焼したり牧のはて
牧の牛闘牛のごとく夕焼す
汽車に積み瑞の桜ん坊ロンドンへ
夏炉焚き沙翁の町の雨冷か
雨宿りしてしばらくは薔薇の前
沙翁ここに眠るバラの花真紅
薔薇の園古き書物を読みふける
薔薇の園老いける人のたふとしく
河骨の上に撥橋撥ねてかかる
人もなつかし草もなつかし五月なる
牡丹散り終日本を読まざりき
牡丹散り白磁を割りしごとしづか
学舎の灯は萍を避けて映る
時計の燐燃えて眼ざむる真夜暑く
書屋わが死所なり花菖蒲
出征標古りぬ門川早苗流れ
うなゐらも夏越の祓いくさ神
をのこ抱き茅の輪をくぐる胸白き
うちあげしあはれ形代と黄ダリヤ