和歌と俳句

阿部みどり女

秋風や石積んだ馬動かざる

町中を雑音を沈めて秋の川

戸一枚刈田に開けてかまど焚く

食卓にまたゝくや夜長の小蝋燭

灯を消すや障子の裾に及ぶ

友は立ちて我は屈みて月の門

戻り見れば小桶に月の供草

縁の鏡にぺたりと坐して残暑人

かき合はす襟美しき風の

日にかざす指環きらめきし菊の庭

夜の卓や光りあつめて林檎あり

秋雨や小柄杓握る手くらがり

秋の日や姉妹異なる髪の影

淋しさや筒よりぬけしにこそ

糸瓜忌や女三人碑のうしろまへ

晩秋の紫苑の風にすがる虫

此所早く落葉被りぬ秋の宮

走馬燈句会の母に長き留守

ぽつぽつと野分に灯る茶屋淋し

秋風やしばしば頬に釣しぶき

やがて気づく菊の小雨や秋袷

墓掃いて昼にかゝりぬ鵙の寺

秋の灯や雨の茶店の早じまひ

菊晴や布団とぢゐて子に復習ひ

菊の日に用ため置いてうかと居ぬ

風添ひて傲れる萩に障子貼る

姉すめば代り坐りぬ秋鏡

だまされし今日の天気や菊句会

閨に遠くつるしかへけり轡虫

腰折りて水覗き見し野菊かな

来客や貼りかけ障子縁に出す

雲の中の明るさうれしを待つ

母にからみて月の二階を下りにけり

母遂に上り来ず月の二階かな

白粉気なくて人柄秋袷

秋の日や米とぐ人の櫛のみね

手のぬくみ野菊の瓣に及ぼしぬ

さそひ転がり草にとまりし木の実かな

晩秋や梯子の足に柿の籠

松虫に吾家の風呂は小さくも

鬼灯や相逢ふ初の従妹同志

針箱の片よせありて菊の留守

流したる七夕竹やたはれ波

法師蝉家込みながら椎の庭

高浪にもまれ戻りぬ葉月舟

ボート待つあと四五人や秋の草

山の家見えて案山子の日和哉