和歌と俳句

阿部みどり女

カンバスに木々のほむらや秋の蝉

掻き合す襟たよりなし萩の風

山葡萄這ひのりもぎぬ蔓ながら

紅葉せし葉につゝみけり山葡萄

一幕を残して出でぬ盆の月

虫の月かそけくかゝる大樹かな

帯にふれて冷かにゆれにけり

木犀のこぼるゝ石に憩ひけり

咲くやまだ縫物に親しまず

庭の句の母にそふ女の子

話声のうしろのあたりより

夕萩にまとふ羽織の匂ふかな

十六夜の月見そなはす御仏

芒の香こもりて雨の十三夜

秋風に草枯れへりしところかな

初秋や舟子が着たる白襦袢

初秋の月大川に光りけり

うつり来しとなり静かや虫の夜

裏門に別れし秋の夕べかな

暗がりを出て来し人やの道

鈴なりの銀杏ながめ雨やどり

いでたちのひとしき僧や花野ゆく

主従して秋の焚火の二たところ

椎の実や落葉の上に落ちし音

牡丹の白粉はげぬ秋扇

袖口の浅黄襦袢や秋祭

捨てゝある芒の束に秋の風

法師蝉ばかりの昼や百花園

野の花を挿したる瓶に初嵐

新涼や一輪ざしの白桔梗

訪ひて羽織をぬぎぬ柿の秋

大樽に糸瓜つけあり水澄める

白樺にもたれて萩の末枯るゝ

萩の雨芙蓉の雨の上野かな

ふるさとを恋ふこともなく障子貼る

客を得てたのしき時や虫の宵

降りつゞき浅間も見ずに秋の旅

牛は今乳しぼらるゝ牧の秋

竃の火うつる無月の潦

吾子の本皆片づけて夜寒かな

寡婦となり俄かに老けぬ黍の秋

命惜しと思ふこの頃門火焚く

案内の子は道草を秋の蝶

山の子の持てる燈やの道

襤褸包なかなかへらず冬支度