よろづよを山田の原のあや杉に風しきたてて聲よばふなり
ながれいでてみ跡垂れます瑞垣は宮河よりや度会のしめ
来る春は峰に霞を先立てて谷の懸樋をつたふなりけり
わきてけふあふさかやまの霞めるは立ち遅れたる春や越ゆらん
若菜摘む野邊の霞ぞあはれなる昔を遠く隔つと思へば
若菜生ふる春の野守に我なりて憂き世を人につみ知らせばや
古巣うとく谷の鶯なりはてばわれやかはりてなかんとすらん
色にしみ香もなつかしき梅が枝に折しもあれや鶯の鳴く
雲にまがふ花の盛りを思はせてかつがつ霞むみ吉野の山
深くいると花の咲きなむ折こそあれ共にたづねん山人もがな
年を経て待つも惜しむも山櫻花に心をつくすなりけり
花を待つ心こそなほ昔なれ春にはうとくなりにしものを
山櫻頭に花を折り添へて限りの春の家づとにせん
花よりも命をぞなほ惜しむべき待ちつくべしと思ひやはせし
惜しまれぬ身だにも世にはあるものをあなあやにくの花の心や
憂き世にはとどめおかじと春風の散らすは花を思ふなりけり
新古今集・雑歌
世の中を思へばなべて散る花の我が身をさてもいづちかもせん
花さへに世をうき草になりにけり散るを惜しめばさそふ山水
風越の峰の続きに咲く花はいつ盛りともなくやちるらん
風もよし花をもさそへいかがせん思ひ出づればあらうまき世ぞ