夜もすがら 惜しげなく吹く あらしかな わざとしぐれの 染むる梢を
寝覚めする 人の心を わびしめて しぐるる音は かなしかりけり
霜埋む 葎が下の きりぎりす あるかなきかの 声聞ゆなり
道もなし 宿は木の葉に 埋もれぬ まだきせさする 冬ごもりかな
木葉ちれば 月に心ぞ あくがるる み山がくれに すまむと思ふに
続後撰集・冬
時雨かと ねざめの床に きこゆるは 嵐に堪へぬ 木の葉なりけり
立田姫 染めし梢の ちるをりは くれなゐあらふ 山川のみづ
嵐掃く 庭の木の葉の 惜しきかな まことの塵に なりぬと思へば
山おろしの 月に木の葉を 吹きかけて 光にまがふ 影をみるかな
こがらしに 峯の木の葉や たぐふらむ 村濃にみゆる 瀧の白糸
宿かこふ ははその柴の 色をさへ したひて染むる 初時雨かな
おのづから 音する人ぞ なかりける 山めぐりする 時雨ならでは
続後撰集・冬
東屋の あまりにもふる 時雨かな 誰かは知らぬ 神無月とは
紅葉よる 網代の布の 色染めて ひをくくりとは 見えぬなりけり
垣籠めし 裾野の薄 霜枯れて さびしさまさる 柴の庵かな
さまざまに 花咲きけりと 見し野辺の 同じ色にも 霜枯れにける
分けかねし 袖に露をば とめ置きて 霜に朽ちぬる 眞野の萩原
霜かづく 枯野の草は 寂しきに いづくは人の 心とむらむ
霜がれて もろくくだくる 荻の葉を 荒らく吹くなる 風の色かな
玉掛けし 花の姿も おとろへて 霜をいただく 女郎花かな
山ざくら 初雪降れば 咲きにけり 吉野は里に 冬籠れども
新古今集
さびしさに 堪へたる人の またもあれな 庵並べむ 冬の山里
霜にあひて 色あらたむる 蘆の穗の 寂しくみゆる 難波江の浦
玉巻きし 垣根の真葛 霜枯れて さびしく見ゆる 冬の山里