和歌と俳句

西行

三笠山春を音にて知らせけり氷をたたくうぐひすの滝

春雨に花のみぞれの散りけるを消えでつもれる雪と見たれば

ひとかたにうつつ思はぬ夢ならば又もや聞くとまどろみなまし

たが方に心ざすらむほととぎす境の松のうれに鳴くなり

待つ宿に来つつ語らへほととぎす身を卯の花の垣根きらはで

聞かずともここをせにせんほととぎす山田の原の杉の群立

たち花のにほふ梢にさみだれて山ほととぎす声かをるなり

ほととぎす五月の雨をわづらひて尾上の岫の杉に鳴くなり

あやめ葺く軒ににほへるたち花に来て声具せよ山ほととぎす

ほととぎす声に植ゑ女のはやされて山田の早苗たゆまでぞ取る

蘆の屋の隙もる月の影待てばあやなく袖にしぐれのりけり

わが恋は三島が沖に漕ぎ出でてなごろわづらふ海人の釣舟

大井川君がなごりのしたはれて井堰の波の袖にかかれる

いつか又めぐり逢ふべき法の輪の嵐の山を君し出でなば

憂き世にはほかなかりけり秋の月ながむるままに物ぞかなしき

山の端に出づるも入るも秋の月うれしくつらき人の心か

いかなれば空なる影はひとつにてよろづの水に月宿るらん

物思ひて結ぶたすきの帯目よわみほどけやすなる君ならなくに

さ夜ふけて月にかはづの声聞けば汀もすずし池の浮草

さらに又そり橋渡す心地してをぶさかかれる葛城の峰