和歌と俳句

新古今和歌集

恋四

家隆朝臣
思ひ出でよ誰がかねごとの末ならむ昨日の雲のあとの山風

刑部卿範兼
忘れゆく人ゆゑ空をながむればたえだえにこそ雲も見えけれ

殷富門院大輔
忘れなば生けらむ物かと思ひしにそれも叶はぬこの世なりけり

西行法師
疎くなる人をなにとて恨むらむ知られず知らぬ折もありしを

西行法師
今ぞ知る思ひ出でよと契りしは忘れむとてのなさけなりけり

土御門内大臣
あひ見しは昔がたりのうつつにてそのかねごとを夢になせとや

權中納言公経
あはれなる心の闇のゆかりとも見し夜の夢をたれかさだめむ

右衛門督通具
契りきや飽かぬわかれに露おきしあかつきばかりかたみなれとは

寂蓮法師
恨みわび待たじいまはの身なれども思ひ馴れにし夕暮の空

宜秋門院丹後
忘れじの言の葉いかになりにけむたのめしくれは秋風ぞ吹く

摂政太政大臣良経
思ひかねうちぬる宵もありなまし吹きだにすさめ庭の松風

有家朝臣
さらでだにうらみむとおもふわぎもこが衣の裾に秋風ぞ吹く

よみ人しらず
心にはいつも秋なる寝覚かな身にしむ風の幾夜ともなく

西行法師
あはれとてとふ人のなどかなかるらむもの思ふ宿の荻の上風

俊恵法師
わが恋は今をかぎりとゆふまぐれ荻吹く風のおとづれて行く

式子内親王
今はただ心のほかに聞くものを知らずがほなる荻のうはかぜ

摂政太政大臣良経
いつも聞くものとや人の思ふらむ来ぬ夕暮のまつかぜのこゑ

前大僧正慈圓
心あらば吹かずもあらむよひよひに人待つ宿の庭の松風

寂蓮法師
里は荒れぬむなしき床のあたりまで身はならはしの秋風ぞ吹く

後鳥羽院御歌
里は荒れぬ尾上の宮のおのづから待ち来し宵も昔なりけり