和歌と俳句

藤原良経

院第二度百首

下萌えのなにやはたてむ難波なる葦火焚く屋にくゆる烟を

木隠れの身はうつせみの唐衣ころもへにけり忍び忍びに

ゆきかよふ夢のうちにも紛るやとうち寝るほどの心やすめよ

繰り返し頼めてもなほ逢ふことの片糸をやは玉の緒にせむ

暮しつる日は菅の根の菅枕かへしてもなほ尽きぬ夜半かな

新古今集・恋
身にそへるその面影も消えななむ夢なりけりと忘るばかりに

新古今集・恋
巡りあはむ限りはいつと知らねども月な隔てそよその浮雲

新古今集・恋
わが涙もとめて袖に宿れ月さりとて人の影は見ねども

われとこぞ眺め馴れにし山の端にそれも形見の有明の月

新古今集・恋
歎かずよ今はた同じ名取川瀬々の埋もれ木朽ち果てぬとも

みな人の世にふる道ぞあはれなる思ひ入るるも思ひ入れぬも

狩人もあはれ知れかし峰の鹿のべのきぎすのおのがこゑごゑ

舟のうち波の下にぞ老いにける海人のしわざも暇なの世や

岩が根のこりしく峰を踏みならし薪こるをのいかがくるしき

春のたに心をつくる民もがな降り立ちてのみ世をぞ厭はむ

わが心その色としは染めねども花や紅葉を眺めきにけり

月日のみ為すこと無くて明け暮れば悔しかるべき身のゆくへかな

おしかへし物を思ふは苦しきに知らず顔にて世をや過ぎまし

浮き沈み来む世はさてもいかにぞと心に問ひて答へかねぬる

君にかく逢ひぬる身こそ嬉しけれ名やは朽ちせむ世々の末まで