和歌と俳句

続後撰和歌集

十一

是貞親王家の歌合に 壬生忠岑
天の原 やどかす人の なければや 秋くるの ねをば鳴くらむ

中納言家持
秋霧に 妻まどはせる 雁がねの 雲かくれゆく 聲のきこゆる

前内大臣家良
天つ空 雲のはたての 秋風に さそはれわたる 初雁のこゑ

右近大将公相
よしさらば 越路を旅と いひなさむ 秋はみやこに 帰る雁がね

聖武天皇御製
けさのあさけ 雁がねさむみ 鳴くなべに 野辺の浅茅ぞ 色づきにける

堀河院御時、百首歌奉りける時、霧 權大納言師頼
吉野川 わたりもみえぬ 夕霧に やなせの浪の 音のみぞする

西園寺入道前太政大臣家卅首歌よみ侍りけるに、 秋歌 従二位家隆
あさひさす たかねのみ雪 空晴れて たちもおよばぬ 富士の川霧

後鳥羽院御製
あさひいでて 空よりはるる 河霧の たえまにみゆる をちの山もと

後久我太政大臣通光
たちこめて そこともしらぬ 山もとの 霧の上より あくるしののめ

後京極摂政前太政大臣良経
須磨の浦の とまやもしらぬ 夕霧に たえだえ照らす あまのいさり火

建保二年、秋 後鳥羽院御製
しきしまや 高円山の 秋風に 雲なき峰を いづる月かげ

前太政大臣実氏
天つ空 清きゆふべの 秋風に 山の端のぼる 月を見るかな

如願法師
心こそ ゆくへもしらね 秋風に さそはれいづる 月をながめて

西行法師
あまのはら おなしいはとを いづれども ひかりことなる 秋の夜の月

徳大寺左大臣実定
よとともに おなしくもゐの なれど 秋は光ぞ 照りまさりける

西園寺入道前太政大臣公経
あまの河 雲の澪ゆく 月影を せき入れてうつす やどの池水

法成寺入道前関白太政大臣道長
雲路より みなそこまでに すむは うへしたてらす 鏡とぞみる

紫式部
くもりなき 空のかがみと みるまでに 秋の夜長く 照らす月かげ

京極前関白太政大臣
みかさ山 峰よりいづる 月影の 天つ空にも てりまさるかな

建保四年百首歌めしけるついでに 後鳥羽院御製
ひさかたの 月影きよし あまのはら くもゐをわたる 夜半の秋風