和歌と俳句

続後撰和歌集

十一

正治百首歌奉りける時 後京極摂政前太政大臣良経
天つ風 みかきてわたる ひさかたの 月のみやこに 玉やしくらむ

皇太后宮大夫俊成
月きよみ みやこの秋を みわたせば 千里にしける 氷なりけり

寂然法師
名にたてて 秋のなかばは こよひぞと 思ひがほなる 月の影かな

入道前摂政家 八月十五夜歌合に 名所月 後鳥羽院下野
初瀬山 ゆつきかしたも あらはれて 今宵の月の 名こそかくれね

賀茂重保歌合せによみてつかはしける 前大納言経房
むかしより おなしみ空の 月なれど 秋のためしや こよひなるらむ

二条関白太政大臣家 八月十五夜歌合に 周防内侍
かくばかり さやけき影は いにしへの 秋の空にも あらじとぞみる

花山院に歌めされける時 戒秀法師
ゆくすゑも こよひの月を 思ひ出でて さやけかりきと 人にかたらむ

昌泰四年八月十五夜歌合歌 よみ人しらず
月影の 初霜とのみ みゆればや いとど夜寒に なりまさるらむ

後鳥羽院御製
秋の田の しのにおしなみ 吹く風に 月もてみがく 露のしらたま

権中納言長方
駒とむる ひのくま川の 底きよみ 月さへ影を うつしつるかな

駒迎の心を 大蔵卿雅具
逢坂の 関たちいづる 影見れば こよひぞ秋の 望月の駒

建保四年百首歌に 前中納言定家
秋の月 かはおとすみて あかす夜に をちかた人の たれを訪ふらむ

建仁元年八月十五夜和歌所撰歌合に 嘉陽門院越前
月影は 氷とみえて よしの河 岩こす浪に 秋風ぞふく

正治百首歌に 後京極摂政前太政大臣良経
からさきや 鳰てる沖に 雲消えて 月の氷に 秋風ぞふく

後嵯峨院
月もなほ ながらに朽ちし 橋ばしら ありとやここに すみわたるらむ

左衛門督通成
秋の夜は すまの関守 すみかへて 月や往き来の 人とどむらむ

少将内侍
とへかしな 芦屋の里の はるる夜に わがすむかたの 月はいかにと

前内大臣基家
すむ月も いくよになりぬ 難波潟 ふるきみやこの 秋の浦風

太上天皇(後嵯峨院)
しほがまの 浦のけぶりは 絶えにけり 月見むとての あまのしわざに

藤原為教朝臣
ますかがみ みぬめの浦は 名のみして おなし影なる 秋の夜の月