よみ人しらず
今さらに雪ふらめやも陽炎のもゆる春日となりにしものを
摂政太政大臣良経
空はなほかすみもやらず風冴えて雪げにくもる春の夜の月
嘉陽門院越前
山ふかみなほかげさむし春の月空かきくもり雪はふりつつ
左衛門督通光
みしま江や霜もまだひぬ蘆の葉につのぐむほどの春風ぞ吹く
藤原秀能
夕月夜しほ満ちくらし難波江のあしの若葉を越ゆるしらなみ
源重之
梅が枝にものうきほどに散る雪を花ともいはじ春の名だてに
山部赤人
あづさゆみはる山近く家居して絶えず聞きつるうぐひすのこゑ
よみ人しらず
梅が枝に鳴きてうつろふ鶯のはね白たへに淡雪ぞふる
惟明親王
鶯のなみだのつららうちとけてふる巣ながらや春を知るらむ
志貴皇子
岩そそぐ垂水の上の早蕨の萌えいづる春になりにけるかな
前大僧正慈円
あまのはら富士の煙の春のいろの霞になびくあけぼののそら
藤原清輔朝臣
朝がすみふかく見ゆるや煙たつ室のやしまのわたりなるらむ
後徳大寺左大臣実定
なごの海の霞の間よりながむれば入日をあらふおきつしらなみ
後鳥羽院
見わたせば山もとかすむ水無瀬川ゆふべは秋となにおもひけむ
中務
知るらめやかすみの空をながめつつ花もにほはぬ春を歎くと