和歌と俳句

源俊頼

たちかへる 春のしるしは 霞しく をはつせ山の 雪のむら消え

衣手の うすきや冬の せきならむ わがみはいとど しみこほりつつ

うぐひすは 春まちつけて いつしかの もりのたままに こゑならすなり

春ぞとは 霞にしるし うぐひすは 花のあたりを そこと告げなむ

いとどしく こゑなつかしき うぐひすは はねもや梅の 香にかほるらむ

うぐひすの きなかざりせば 山里に たれとか春の 日を暮さまし

數ならぬ 身をうぐひすと おもへども なくをば人の しのばざりけり

雪消えぬ 谷隠れなる うぐひすの 何をしるべに 春を知るらむ

山里は つれづれになく うぐひすの こゑよりほかに 友なかりけり

春雨は ふりしむれども うぐひすの こゑはしをれぬ ものにぞありける

かくばかり すげなき梅を うぐひすの いかにしてかは かさにぬふらむ

千載集・春
梅が香は おのが垣根を あくがれて まやのあまりに ひま求むなり

心あらば 問はましものを 梅の香に たが里よりか にほひきつらむ

梅の花 ちるこのもとに 風ふけば かさねぬさきに 袖ぞかをれる

梅の花 色をば闇に かこへども 香はもれてくる ものにぞありける

ちりつもる 花こそいはに よどむとも 香は流れてや 瀬にかをるらむ

咲きそむる 梅のたち枝に 降る雪は 重なる數を とへとこそおもへ

千載集・春
梅が枝に 心もゆきて かさなるを 知らでや人の とへといふらむ

くれなゐの 梅が枝になく うぐひすは こゑの色さへ ことにぞありける

垣越しに ふきくる風の にほひにて 花のありかを そらにしるかな