和歌と俳句

源俊頼

にほとりの すだくみ沼の 杜若 ひとへたつべき わが心かは

秋かりし 室のおしねを 思ひいでて 春ぞたなゐに 種もかしける

今こそは ききもあはすれ きぎす鳴く をちのたかねは 鷹の峯かも

いとどしく おのがありかへ やる犬を ここにありとや 鳥のなくらむ

きぎす鳴く すた野に君が くちすゑて あさふますらむ いざゆきてみむ

風吹けば 波をりかけて かへりけり 岸にはうゑし 山吹の花

山吹を かざしにさせば はまくりを 井手のあたりの ものとみるかな

こころざし 八重の山吹と おもふより はまくりかへし あはれとぞみる

水底に 沈める枝の 雫には 濡るとも折らむ 山吹のはな

をる波の うしろめたさに めもかれず たちゐふしみる 山吹の花

山吹を をるとや人の 思ふらむ はしたとるとて わくるまそてを

ここのへに 八重山吹を うつしては 井手のかはづの 心をぞくむ

山吹の 名残をこひて 今朝よりは 誰とか井手の かはづ鳴くくらむ

山吹の みぎはもすまに 咲きぬれば あらふさなみも いとなかりけり

あかずのみ 思ふ心の 重なれば 幾重ともなし 山吹の花

春きては 心のまつに かかりつる 藤の初花 さきそめにけり

雨降ると 藤の裏葉に 袖ふれて 花にしほるる わが身とおもはむ

藤の花 みぎはに匂ほふ 池みれば 深紫に 浪ぞたちける

むらさきに いくしほ染めて 藤の花 ゆふひさかきの はひをさすらむ

春日山 さかゆくふぢに いとどしく うぐひすなきつ 春のあけぼの