うき身をば 花見る人も 厭ひけり こころは春の 風ならねども
あづまぢの おいその森の 花ならば かへらむことを 忘れましやは
山桜 たにふところに こがくれよ 風そよめきて 花もとむなり
雪きえぬ 富士の煙と 見えつるは 霞にまがふ 桜なりけり
千載集
暮れはてぬ 帰へさは送れ 山ざくら たがために来て まどふとか知る
わが心 花のこづゑに 旅寝して 身のゆくへをも しらじとすらん
波たてる 桜のみかは 池にさへ 花のみふねを 浮かべてぞ見る
八重桜 みるにけがるる 身の程を おもひもしらず 尋ね来るかな
色みれば 桜なれども 重なれる けしきは八重の 山吹の花
もきたつる こずゑをみれば いとどしく あたりをはらふ 八重桜かな
八重桜 散らす風ぞと 思ふより つらきながらも なつかしきかな
身の程を なにおもふらむ 八重咲ける 花みるほどの 心うつしに
春風に あらぬ身なれど 桜花 たづぬる人に いとはれにけり
君が身は 花にかへじと みるものを 風ならずとも 思ひけるかな
むかしより こころありける 山なれば 風も櫻を もてはやすかな
こずゑには 名残もあらじ 山桜 折らでは帰る 人しなければ
妹背山 谷ふところに おひたちて きぎのはぐくむ 花をこそみれ
あすも来む 枝垂り柳の 枝ほそみ やなぎの糸に むすぼほれけり
風だにも 通はざりける 山なれば 散らでや花の 春を過ぐらむ
人はさぞ いはねとどまる 桜花 惜しむこずゑに 名残あらせよ