和歌と俳句

千載和歌集

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藤原為真
蘆の屋のかりそめぶしは津の国のながらへゆけど忘れざりけり

円位法師
知らざりき雲居のよそに見し月のかげをたもとにやどすべしとは

円位法師
逢ふと見しその夜の夢の覚めであれな長きねぶりは憂かるべけれど

空仁法師
秋風の憂き人よりもつらきかな恋せよとては吹かざらめども

源仲綱
心さへ我にもあらずなりにけり恋は姿の変るのみかは

二條院内侍三河
待ちかねて小夜も吹飯の浦風に頼めぬ波の音のみぞする

讃岐
ひとよとて夜がれしとこのさむしろにやがても塵のつもりぬるかな

摂政前右大臣兼実
ながらへて変る心を見るよりは逢ふに命を替へてましかば

前中納言雅頼
逢ふことのありしところし変らずは心をだにもやらましものを

權中納言経房
うつり香に何しみにけん小夜衣わすれぬつまとなりけるものを

右近中将忠良
忘れぬやしのぶやいかに逢はぬまの形見と聞きし明け暮れの空

俊恵法師
思ひかねなほ恋路にぞかへりぬる恨みは末もとほらざりけり

殷富門院大輔
見せばやな雄島の海人の袖だにも濡れにぞ濡れし色は変らず

前右京大夫頼政
山城の美豆野の里に妹をおきていくたび淀に舟呼ばふらん

藤原隆信朝臣
人知れずむすびそめてし若草の花のさかりも過ぎやしぬらん

藤原顕家朝臣
いかなれば流れは絶えぬ中川に逢ふ瀬の數のすくなかるらん

源仲綱
すみなれしさのの中川瀬だえして流れ変るは涙なりけり

二條院讃岐
今さらに恋しといふも頼まれずこれも心の変ると思へば

太皇太后宮小侍従
恋ひそめし心の色の何なれば思ひ返すにかへらざるらん

道因法師
伊勢嶋や一志の浦の海人だにもかづかぬ袖は濡るるものかは

俊恵法師
思ひきや憂かりし夜は鳥の音を待つことにして明かすべしとは

俊恵法師
からごろも返しては寝じ夏の夜は夢にもあかで人別れけり

法印静賢
身のうさを思ひ知らでややみなまし逢ひみぬさきのつらさなりせば

皇太后宮大夫俊成
逢ふことは身を替へてとも待つべきに世々をへだてんほどぞかなしき

摂政家丹後
思ひ寝の夢になぐさむ恋なれば逢はねど暮の空ぞ待たるる

民部卿成範
恋ひわびてうち寝る宵の夢にだに逢ふとは人の見えばこそあらめ

權大納言実家
わびつつはなれだに君にとこ馴れよかはさぬ夜半の枕なりとも

返し よみ人しらず
歎きつつかはさぬ夜半のつもるには枕もうとくならぬものかは

右近中将忠良
これはみな思ひしことぞ馴れしよりあはれなごりをいかにせんとは

權中納言通親
死ぬとても心を分くるものならば君に残してなほや恋ひまし