よみ人しらず
起きてゆく涙のかかる草まくら露しげしとや人のあやめん
よみ人しらず
涙をも忍ぶるころの我が袖にあやなく月のやどりぬるかな
内大臣良通
忍びかね今は我とや名のらまし思ひ捨つべきけしきならねば
左近中将良経
知られてもいとはれぬべき身ならずは名をさへ人に包まましやは
左兵衛督隆房
いづくより吹きくる風の散らしけんたれもしのぶの森の言の葉
前右京權大夫頼政
思ひかね夢に見ゆやと返さずは裏さへ袖は濡らさざらまし
源師光
繰り返しくやしきものは君にしも思ひよりけん賤のをだまき
藤原隆親
いとはるる身を憂しとてや心さへ我をはなれて君に添ふらん
源光行
あぢきなくいはで心をつくすかなつつむ人目も人のためかは
皇太后宮若水
くれなゐに萎れし袖も朽ちはてぬあらばや人に色も見すべき
皇嘉門院尾張
命こそおのがものから憂かりけれあればぞ人をつらしとも見る
右近中将忠良
何とかや忍ぶにはあらでふるさとの軒端に茂る草の名ぞ憂き
太皇太后宮小侍従
見し夢の覚めぬやがてのうつつにてけふと頼めし暮を待たばや
二條院御製
知るらめや落つる涙の露ともに別れのとこに消えて恋ふとは
御返し よみ人しらず
まだ知らぬ露おく袖を思ひやれかことばかりのとこの涙に
摂政前右大臣兼実
帰りつるなごりの空をながむればなぐさめがたき有明の月
皇太后宮大夫俊成
忘るなよ世々の契りを菅原や伏見の里の有明の空
和泉式部
いかにして夜の心をなぐさめむ昼はながめにさてもくらしつ
和泉式部
これもみなさぞなむかしの契りぞと思ふものからあさましきかな
花山院御製
よそにてはなかなかさてもありにしをうたて物思ふきのふけふかな
小式部
思ひ出でてたれをか人の尋ねまし憂きに堪へたる命ならずは
和泉式部
待つとてもかばかりこそはあらましか思ひもかけぬ秋の夕暮
和泉式部
ほどふれば人は忘れてやみぬらん契りしことをなほ頼むかな
藤原実方朝臣
竹の葉に玉ぬく露にあらねどもまだ夜をこめておきにけるかな
藤原基俊
木の間よりひれ振る袖をよそに見ていかがはすべき松浦さよ姫
藤原仲実朝臣
まぶしさすしづをの身にも堪へかねて鳩吹く秋の声たてつなり