和歌と俳句

拾遺和歌集

恋三

よみ人しらず
あしひきの山した風も寒けきにこよひも又やわがひとり寝ん

人麿
あしひきの山鳥の尾のしだりをのながながし夜をひとりかもねむ

よみ人しらず
あしひきの葛木山にゐる雲のたちてもゐても君をこそおもへ

よみ人しらず
あしひきの山の山菅やまずのみ見ねば恋ひしき君にもあるかな

石上乙麿
あしひきの山こえ暮れて宿からば妹たちまちていねざらむかも

人麿
あしひきの山よりいづる月まつと人にはいひて君をこそまて

人麿
三日月のさやかに見えず雲隠れ見まくぞほしきうたてこのごろ

よみ人しらず
逢ふ事はかたわれ月の雲かくれおほろげにやは人のこひしき

人麿
秋の夜の月かも君は雲かくれしばしも見ねばここらこひしき

平兼盛
秋の夜の月見るとのみ起きゐつつこよひもねてや我はかへらん

源信明
恋ひしさは同じ心にあらずともこよひの月を君見ざらめや

返し 中務
さやかにも見るべき月を我はただ涙にくもる折ぞおほかる

人麿
久方のあまてる月も隠れ行く何によそへて君をしのばむ

よみ人しらず
都にて見しにかはらぬ月影をなぐさめにても明かすころかな

貫之
てる月も影みなそこに映りけり似たる物なき恋もするかな

馬内侍
こよひ君いかなる里の月を見て都にたれを思ひいづらむ

忠岑
月影をわが身にかふる物ならば思はぬ人もあはれとや見む


ひとりぬる宿には月の見えざらば恋しきことの數はまさらじ

人麿
長月の有明の月の有りつつも君し来まさば我が恋ひめやも

人麿
ことならば闇にぞあらまし秋の夜のなぞ月影の人たのめなる