和歌と俳句

拾遺和歌集

恋三

人麿
秋の田の穂のうへにおける白露の消ぬべく我は思ほゆるかな

人麿
住吉の岸を田にほり蒔きし稲の刈る程までも逢はぬ君かな

赤人
恋ひしくは形見にせむと我が宿に植ゑし秋萩いま盛りなり

広平親王
秋萩の下葉を見ずば忘らるる人の心をいかで知らまし

よみ人しらず
しめゆはぬ野邊の秋萩かぜふけばとふしかくふし物をこそ思へ

馬内侍
うつろふは下葉ばかりと見しほどにやがても秋になりにけるかな

能宣
ことのはも霜にはあへず枯れにけりこや秋はつるしるしなるらん

貫之
色もなき心を人にそめしよりうつろはむとは我が思はなくに

よみ人しらず
數ならぬ身を宇治川の網代木に多くの日をも過ぐしつるかな

よみ人しらず
下紅葉するをば知らで松の木のうへの緑を頼みけるかな

人麿
わが背子をわが恋ひをればわが宿の草さへ思ひうらかれにけり

よみ人しらず
霜のうへにふる初雪のあさ氷とけずも物を思ふころかな

源景明
み吉野の雪にこもれる山人もふる道とめてねをやなくらん

人麿
たのめつつ来ぬ夜あまたになりぬればまだしと思ふぞ待つにまされる