和歌と俳句

拾遺和歌集

恋三

春宮左近
ふらぬ夜の心を知らで大空の雨をつらしと思ひけるかな

よみ人しらず
衣だになかに有りしはうとかりき逢はぬ夜をさへ隔てつるかな

よみ人しらず
ながき夜も人をつらしと思ふには寝なくに明くる物にぞありける

よみ人しらず
忘れなん今はとはじと思ひつつ寝る夜しもこそ夢に見えけれ

よみ人しらず
夜とても寝られざりけり人知れず寝覚めの恋におどろかれつつ

よみ人しらず
むばたまの妹が黒髪こよひもや我がなきとこになびきいでぬらん

よみ人しらず
わがせこがありかも知らで寝たる夜はあか月かたの枕さびしも

よみ人しらず
いかなりし時くれ竹のひと夜だにいたづらふしをくるしといふらん

よみ人しらず
いかならん折節にかは呉竹の夜は恋ひしき人にあひ見む

人麿
まさしてふ八十のちまたに夕げとふうらまさにせよ妹に逢ふべく

人麿
夕げとふうらにもよくあり今宵だに来ざらむ君をいつか待つべき

人麿
夢をだにいかでかたみに見てしがな逢はで寝る夜のなぐさめにせん

人麿
うつつにはあふことかたし玉の緒のよるはたえせすゆめに見えなん

ひろはたのみやす所
いにしへをいかでかとのみ思ふ身にこよひの夢を春になさばや

貫之
忘らるる時しなければ春の田を返す返すぞ人は恋ひしき

よみ人しらず
あづさゆみ春のあら田をうち返し思ひやみにし人ぞ恋ひしき

躬恒
かの岡に萩刈るをのこ縄をなみねるやねりそのくだけてぞ思ふ

よみ人しらず
春くれば柳のいともとけにけり結ぼほれたる我が心かな

よみ人しらず
いづ方によるとかは見む青柳のいとさだめなき人の心を

よみ人しらず
まきもくの檜原の霞立返りかくこそは見めあかぬ君かな