和歌と俳句

大中臣能宣

拾遺集・雑
わたつみの浪にも濡れぬ浮島の松に心を寄せて頼まん

拾遺集・雑>
いかで猶わが身にかへて武隈の松ともならむ行人のため

拾遺集・雑
暁の寝覚めの千鳥誰がためか佐保の河原にをちかへり鳴く

拾遺集・雑
浅からぬ契結べる心葉は手向の神ぞ知るべかりける

拾遺集・雑
梓弓はるかに見ゆる山の端をいかでか月のさして入るらん

拾遺集・雑
なしといへばをしむかもとや思ふらんしかやむまとぞいふべかりける

拾遺集・神楽歌
君が世の長等の山のかひありとのどけき雲のゐる時ぞ見る

拾遺集・神楽歌
さゞなみの長等の山のながらへて楽しかるべき君が御世哉

拾遺集・神楽歌
ちはやぶるみ神の山のさかき葉は栄えぞまさる末の世までに

拾遺集・神楽歌
みつき積む大蔵山はときはにて色も変はらず万世ぞへむ

拾遺集・神楽歌
みがきける心もしるく鏡山くもりなき世にあふが楽しさ

拾遺集・神楽歌
今年より千とせの山は声たえず君が御世をぞいのるべらなる

拾遺集・神楽歌
いのりくるみ神の山のかひしあれば千とせの影にかくて仕へん

拾遺集・神楽歌
今日よりは岩蔵山に万代をうごきなくのみ積まむとぞ思

拾遺集・恋
逢ふことを待ちし月日のほどよりも今日のくれこそ久しかりけれ

拾遺集・恋
朝氷とくる間もなき君によりなどてそほつる袂なるらん

拾遺集・恋
あすしらぬ我が身なりとも怨みおかむこの世にてのみやまじと思へば

拾遺集・恋
蚊遣火は物思ふ人の心かも夏の夜すがら下にもゆらん

拾遺集・恋
ことのはも霜にはあへず枯れにけりこや秋はつるしるしなるらん

拾遺集・恋
いかでいかで恋ふる心を慰めて後の世までの物を思はじ

拾遺集・雑春
田子の浦の深く見ゆるかな藻塩の煙立ちや添ふらん

拾遺集・雑春
松ならば引人今日は有なまし袖の緑ぞかひなかりける

拾遺集・雑秋
帰にし雁ぞ鳴くなるむべ人はうき世中をそむきかぬらん

拾遺集・雑秋
ふるさとに帰ると見てや龍田姫紅葉の錦空に着すらん

拾遺集・雑秋
杣山に立つ煙こそ神無月時雨を下す雲となりけれ

拾遺集・雑秋
有明の心地こそすれ盃に日かげも添ひて出でぬと思へば

拾遺集・哀傷
桜花にほふ物から露けきは木のめも物を思なるべし

拾遺集・哀傷
墨染の色は我のみと思しを憂き世をそむく人もあるとか