和歌と俳句

拾遺和歌集

恋五

善祐法師母
なく涙 世はみな海と なりななん おなじなぎさに 流れよるべく

人麿
住吉の岸 にむかへる あはち島 あはれと君を いはぬ日ぞなき

よみ人しらず
すてはてむ 命を今は 頼まれよ あふべきことの この世ならねば

よみ人しらず
生き死なん ことの心に かなひせば ふたたび物は おもはざらまし

よみ人しらず
燃え果てて 灰となりなん 時にこそ 人を思ひの やまむこにせめ

よみ人しらず
いづ方に 行き隠れなん 世の中に 身のあればこそ 人もつらけれ

よみ人しらず
ありへむと 思ひもかけぬ 世の中は なかなか身をぞ なげかざりける

よみ人しらず
いつはりと 思ふものから 今さらに 誰がまことをか 我はたのまむ

よみ人しらず
世の中の うきもつらきも しのぶれば 思ひしらずと 人や見るらん

よみ人しらず
ひたふるに 死なばなにかは さもあらばあれ 生きてかひなき 物思ふ身は

人麿
恋するに 死にする物に あらませば 千度ぞ我は 死にかへらまし

人麿
恋ひて死ね 恋ひて死ねとや わぎもこが わが家の門を 過ぎて行くらん

人麿
恋ひ死なば 恋ひも死ねとや 玉桙の 道ゆき人に ことづてもなき

重之
恋しきを なぐさめかねて 菅原や 伏見にきても ねられざりけり

よみ人しらず
恋しきは 色にいでても 見えなくに いかなる時か むねにしむらん

よみ人しらず
しのばむに しのばれぬべき 恋ならば つらきにつけて やみもしなまし

大中臣能宣
いかでいかで 恋ふる心を なぐさめて のちの世までの 物をおもはじ

よみ人しらず
限なく 思ふ心の 深ければ つらきもしらぬ ものにぞありける

よみ人しらず
わりなしや しひてもたのむ 心かな つらしとかつは 思ふものから

よみ人しらず
うしと思ふ ものから人の 恋ひしきは いづこをしのぶ 心なるらん