和歌と俳句

拾遺和歌集

恋五

よみ人しらず
わがごとく 物思ふ人は いにしへも 今ゆくすゑも あらじとぞ思ふ

坂上郎女
くろかみに しろかみまじり おふるまで かかるこひには いまだあはざるに

坂上郎女
しほみては 入りぬるいその 草なれや 見らくすくなく こふらくのおほき

坂上郎女
志賀のあまの つりにともせる いさり火の ほのかに人を 見るよしもがな

坂上郎女
いはねふみ かさなる山は なけれども あはぬ日數を こひやわたらん

藤原有時
なげきこる 山路は人も しらなくに わが心のみ つねにゆくらん

円融院
限なき 思ひのそらに みちぬれば いくその煙 雲となるらん

御返し 少将更衣
そらにみつ 思ひの煙 雲ならば ながむる人の めにぞ見えまし

よみ人しらず
おもはずは つれなき事も つらからじ 頼めば人を 怨みつるかな

よみ人しらず
つらけれど うらむるかぎり ありければ 物はいはれで ねこそなかるれ

よみ人しらず
くれなゐの やしほのころも かくしあらば おもひそめずぞ あるべかりける

よみ人しらず
ほのかにも 我をみしまの あくた火の あくとや人の おとづれもせぬ

承香殿中納言
人をとく あくた河てふ 津の国の 名にはたがはぬ ものにぞありける

よみ人しらず
限なく 思ひそめてし くれなゐの 人をあくにぞ かへらざりける

よみ人しらず
ありそ海の 浦とたのめし なこり浪 うちよせてける 忘れ貝かな

よみ人しらず
つらけれど 人にはいはず いはみがた 怨ぞふかき 心ひとつに

よみ人しらず
怨みぬも うたがはしくぞ おもほゆる たのむ心の なきかとおもへば

よみ人しらず
近江なる 打出のはまの うちいでつつ 怨みやせまし 人の心を

よみ人しらず
わたつ海の ふかき心は ありながら うらみられぬる ものにぞありける

よみ人しらず
かずならぬ 身は心だに なからなん 思ひしらずば 怨みさるべく