和歌と俳句

新古今和歌集

哀傷

久我太政大臣雅實
もの思へば色なき風もなかりけり身にしむ秋のこころならひに

ふるさとをわかれし秋をかぞふれば八とせになりぬありあけの月

能因法師
命あればことしの秋も月は見つわかれし人に逢ふよなきかな

前大納言公任
今日来ずは見でややみなむ山里の紅葉も人も常ならぬ世に

後鳥羽院
思ひ出づる折りたく柴の夕煙むせぶもうれし忘れがたみに

返し 前大僧正慈円
思ひ出づる折りたく柴と聞くからにたぐひも知らぬ夕煙かな

後鳥羽院
亡き人のかたみの雲やしぐるらむゆふべの雨にいろは見えねど

相模
神無月しぐるる頃もいかなれや空に過ぎにし秋のみや人

土御門右大臣女
手すさびのはかなき跡と見しかども長き形見になりにけるかな

馬内侍
尋ねても跡はかくてもみづぐきのゆくへも知らぬ昔なりけり

返し 斎宮女御
いにしへのなきに流るるみづぐきは跡こそ袖のうらによりけれ

藤原道信朝臣
ほしもあへぬ衣の闇にくらされて月ともいはずまどひぬるかな

東三條院
水底に千々の光はうつれども昔のかげは見えずぞありける

源信明朝臣
ものをのみ思ひ寝覚めの枕には涙かからぬあかつきぞなき

上東門院
逢ふ事も今はなきねの夢ならでいつかは君をまたは見るべき

女御藤原生子
憂しとては出でにし家を出でぬなりなどふるさとにわが帰りけむ

源道済
はかなしといふにもいとど涙のみかかるこの世を頼みけるかな

ふるさとに行く人もがな告げやらむ知らぬ山路にひとりまどふと

權大納言長家
玉の緒の長きためしにひく人も消ゆれば露にことならぬかな

和泉式部
恋ひわぶと聞きにだに聞け鐘の音にうち忘らるる時の間ぞなき