和歌と俳句

源信明

秋とだに 思はざりせば 人知れず しぐるることを 何に告げまし

いひそめぬ 程はなかなか ありにしを しづ心なき きのふけふかな

わりなくて やみやしなむと わびつるに たすくる神を 見るがうれしき

まだ知らず 惑ふ心に いとどしく おぼつかなきは わびしかりけり

わびしきに 恋にまどへる 心には そのこととしも 見えずぞありける

程もなく 消えぬべきよに 白露の つらかりきとな 思ひおかれそ

おとなしの 山より出づる 水なれや おぼつかなくも 流れゆくかな

なかなかに おぼつかなさの 夢ならば あはする人も ありもしなまし

人知れぬ おもひをすれば 秋萩の 下葉こがるる ものにぞありける

露はおけど わがをるやどの 萩の枝は かくこそ秋を 知らずかほなれ

おもふこと ありてひさしく なりぬとは きくかきかぬか しりてしらぬか

新古今集・哀傷
ものをのみ おもふ寝覚めの 枕には 涙かからぬ あかつきぞなき

てすさびに ひをけのをけや ありにけむ 恋ひしき人に 逢はぬころかな

かぎりなく おもへる駒に くらべれば 身にそふかげは 遅れざりけり

年毎に 名をだにかへば 世の常の さくらとのみは いはずぞあらまし

人知れぬ わがものおもひの 涙をば 袖につけてぞ 見すべかりける

後撰集・恋
思ひきや 逢ひ見ぬ程を いつなりと かぞふばかりに ならむものとは

あけくれは 籬の島を ながめつつ みやこ恋ひしき ねをのみぞなく

いかにして 君が心に たちつらむ 小松の山の 墨染の雲

あらうしの したじのうらの ゆかしさに とりて見つれば はしかれにけり

世の中の たのみどころに せしものを はせをばかくや 焼かむと思ひし

今宵こそ しでのたをさも ききつらめ 今はさつきの 空に知られむ

ほととぎす ききわたるとも 五月雨の そらごとにだに 人のなさなむ

知るや君 知らずはいかに つらからむ わがかくばかり 思ふこころを

みるめゆゑ あまににたれど をみなへし けふは我にぞ かづきおどれる

うぐひすの なくねをきけは 山深み 我より先に 春は来にけり