しほかぜに伊勢の濱荻うらがれて草の枕も霜ぞさえける
伊勢の海きよきなぎさに鳴く千鳥こゑもさえたるありあけのそら
冬なれば水のこほるは常なれどことには諏訪の渡りとぞきく
夜もすがら鴛のうはけを払ふにぞ霜はまことにふるものときく
たなかみや宇治の網代にもるるありて日を経むほどもあはれいつまで
かごやまや榊の枝ににきてかけそのかみあそび思ひこそやれ
風さむみ狩場のをのに朝たちてしのぶもぢずり霰ちりかふ
炭竃の山のおくまで見ゆるかな民のつとめの限りなければ
うづみ火をかきおこさずば冬の夜の寝覚めの床は友なからまし
月日のみ流るる水とはやけれど老いのそこより年はかへらず
うれしさを袖につつまむ思ふことみつのかしはに今日ぞこととふ
しのばずは干さでも袖を見すべきにしばりぞかぬる夜半のさごろも
いたづらに行けども逢はで帰るかな君はふせやに老ひぬものゆゑ
朽ち果てし夜の衣をかはすかなしほとけしとやあはれなりとや
別れつる床に心はとどめおきて霞にまよふ春のあけぼの
うつり香は重ねし袖にありながら濡れぎぬとやはいひはなつべき
夢路には馴れしやと見るうつつにて宇都の山邊の蔦葺ける庵
深からぬ澤の蛍の思ひだに身よりあまるはあはれならずや
世とともにわれのみ思ひ砕くらむ岩打つ磯の波ならなくに
波越さばうらみむとこそ契りしがいかがなりゆく末の松山