和歌と俳句

新古今和歌集

雑歌

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祝部成仲
あけくれは昔をのみぞしのぶ草はずゑの露に袖ぬらしつつ

前大僧正慈円
岡のべの里のあるじを尋ぬれば人は答へず山おろしの風

西行法師
古畑のそばのたつ木にゐる鳩の友よぶ聲のすごきゆふぐれ

西行法師
山がつのかた岡かけてしむる野の境に立てる玉のをやなぎ

西行法師
しげき野をいくひと村にわけなして更に昔をしのびかへさむ

西行法師
むかし見し庭の小松に年ふりてあらしのおとを梢にぞ聞く

大僧正行尊
住み馴れしわがふるさとはこの頃や浅茅が原に鶉啼くらむ

摂政太政大臣良経
ふるさとはあさぢがすゑになりはてて月に残れる人のおもかげ

西行法師
これや見し昔住みけむ跡ならむよもぎが露に月のかかれる

貫之
蔭にとて立ちかくるればからごろも濡れぬ雨ふる松の聲かな

能因法師
いそのかみふりにし人をたづぬれば荒れたる宿に摘みけり

恵慶法師
いにしへを思ひやりてぞ恋ひわたる荒れたる宿の苔のいしばし

藤原定家朝臣
わくらばに問はれし人も昔にてそれより庭の跡は絶えにき

赤染衛門
なげきこる身は山ながら過ぐせかし憂き世の中に何帰るらむ

人麿
秋されば狩人越ゆる立田山立ちても居てもものをしぞおもふ

天智天皇
朝倉や木のまろ殿にわがをれば名のりをしつつ行くは誰が子ぞ

菅贈太政大臣
あしひきのかなたこなたに道はあれど都へいざといふ人ぞなき

天の原あかねさし出づる光にはいづれの沼かさえ残るべき

月毎に流ると思ひしますかがみ西の浦にもとまらざりけり

山別れ飛びゆく雲の帰り来るかげ見る時はなほたのまれぬ

霧立ちて照る日の本は見えずとも見は惑はれじよるべありやと

花と散り玉と見えつつあざむけば雪ふる里ぞ夢に見えける

老いぬとて松はみどりぞまさりけるわが黒髪の雪の寒さに

筑紫にも紫おふる野邊はあれどなき名かなしぶ人ぞ聞こえぬ

刈萱の関守にのみ見えつるは人もゆるさぬ道べなりけり

海ならずたたへる水の底までに清きこころは月ぞ照らさむ

彦星の行きあひを待つかささぎのわたせる橋をわれにかさなむ

流れ木と立つ白波と焼く鹽といづれかからきわたつみの底

よみ人しらず
さざなみや比良山風の海吹けば釣りするあまの袖かへる見ゆ

よみ人しらず
白波の寄する渚に世をすぐす海人の子なれば宿もさだめず

摂政太政大臣良経
舟のうち波の下にぞ老いにけるあまのしわざも暇なの世や

前中納言匡房
さすらふる身は定めたる方もなしうきたる舟の浪に任せて

増賀上人
いかにせむ身をうき舟の荷を重みつひの泊やいづくなるらむ

人麿
蘆鴨のさわぐ入江の水の江の世にすみがたきわが身なりけり