和歌と俳句

新古今和歌集

雑歌

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大僧都覺辨
おいらくの月日はいとどはやせ川かへらぬ浪に濡るる袖かな

藤原行能
かき流す言の葉をだに沈むなよ身こそかくてもやまかはの水

鴨長明
見ればまづいとど涙ぞもろかづらいかに契りてかけ離れけむ

源季景
同じくはあれないにしへ思ひ出でのなければとてもしのばずもなし

西行法師
いづくにも住まれずはただ住まであらむ柴の庵のしばしなる世に

西行法師
月のゆく山に心を送り入れてやみなる跡の身をいかにせむ

前大僧正慈円
思ふことなど問ふ人のなかるらむ仰げば空に月ぞさやけき

前大僧正慈円
いかにして今まで世には有明のつきせぬものを厭ふこころは

八條院高倉
うき世出でし月日の影の廻り来てかはらぬ道をまた照らすらむ

後鳥羽院御歌
おほぞらにちぎるおもひの年も経ぬ月日もうけよ行く末の空

承仁法親王
人知れずそなたをしのぶ心をばかたぶく月にたぐへてぞやる

前右大将頼朝
みちのくのいはでしのぶはえぞ知らぬかき盡してよつぼの石ぶみ

大江嘉言
今日までは人を歎きて暮れにけりいつ身の上にならむとすらむ

清慎公実頼
道芝の露に争ふわが身かないづれかまづは消えむとすらむ

皇嘉門院
何とかや壁に生ふなる草の名よそれにもたぐふわが身なりけり

權中納言資實
来し方をさながら夢になしつれば覺むる現のなきぞ悲しき

性空上人
ちとせふる松だにくゆる世の中に今日とも知らでたてるわれかな

源俊頼朝臣
數ならで世にすみのえの澪標いつをまつともなき身なりけり

皇太后宮太夫俊成
憂きながら久しくぞ世を過ぎにけるあはれやかけし住吉の松

家隆朝臣
春日山谷のうもれ木朽ちぬとも君に告げこせ峰のまつかぜ

宜秋門院丹後
なにとなく聞けばなみだぞこぼれぬる苔の袂に通ふ松風

女御徽子女王
皆人のそむきはてぬる世の中にふるの社の身をいかにせむ

実方朝臣
衣手のやまゐの水に影見えしなほそのかみの春ぞこひしき

返し 道信朝臣
いにしへの山ゐの衣なかりせば忘らるる身となりやしなまし

加賀左衛門
たちながらきてだに見せよ小忌衣あかぬ昔の忘れがたみに

村上院御歌
秋の夜のあかつきがたのきりぎりす人づてならで聞かましものを

中務卿具平親王
ながめつつわが思ふことはひぐらしに軒の雫の絶ゆるよもなし

小野小町
こがらしの風にもみぢて人知れずうき言の葉のつもるころかな

皇太后宮太夫俊成
嵐吹く峯のもみぢの日にそへてもろくなりゆくわが涙かな

崇徳院御歌
うたたねは荻吹く風に驚けどながき夢路ぞ覺むる時なき

後鳥羽院宮内卿
竹の葉に風吹きよわる夕暮れのもののあはれは秋としもなし

和泉式部
夕暮れは雲のけしきを見るからにながめじと思ふ心こそつけ

和泉式部
暮れぬめり幾日をかくて過ぎぬらむ入相の鐘のつくづくとして

西行法師
待たれつる入相の鐘の音すなり明日もやあらば聞かむとすらむ

皇太后宮太夫俊成
暁とつげのまくらをそばだてて聞くもかなしき鐘の音かな

式子内親王
暁のゆふつけ鳥ぞあはれなる長きねぶりを思ふまくらに