和歌と俳句

村上鬼城

草の戸にふやけて咲くや猫柳

虻飛んで一大円をゑがきけり

日暮るるに竿続ぎ足すや小鮎釣

鹿の角何にかけてや落したる

猫の子や親を離れて眠り居る

山吹に大馬洗ふ男かな

茶畑に葭簀かけたる薄日かな

ねもごろに一本の茶を摘みにけり

鶺鴒の春田のくろを光りけり

生きかはり死にかはりして打つ田かな

夏近き曾我中村の水田かな

夏近き近江の空や麻の雨

浮く蛙居向をかへて浮きにけり

事もなげに浮いて大なる蛙かな

谷川に朱を流して躑躅かな

谷橋に来て飯に呼ぶ藤の花

竹垣に咲いてさがれり藤の花

藤浪や峰吹きおろす松の風

岩藤や犬吼え立つる橋の上

何燃して天を焦すぞ暮の春

浅間山春の名残の雲かかる

行春や畑にほこる葱坊主

行春や淋しき顔の酒ぶくれ

亡き人の短尺かけて暮の春

春惜む同じ心の二法師