和歌と俳句

田螺 たにし

鍋さげて田螺ほるなり京はづれ 虚子

田螺鳴く二条御門の裏手かな 碧梧桐

よく聞けば田螺鳴くなり鍋の中 漱石

山吹に里の子見えぬ田螺かな 漱石

ぶつぶつと大な田螺の不平哉 漱石

茂吉
とほき世の かりようびんがの わたくし兒 田螺はぬるき みづ戀ひにけり

茂吉
田螺はも 背戸の圓田に ゐると鳴かねど ころりころりと 幾つもゐるも

戸を開けて田螺の國の静さよ 鬼城

籠をもる小さき田螺や水に落つ 虚子

田螺取義仲寺遠く暮れにけり 蛇笏

鎌倉の飯屋に食ひし田螺かな 石鼎

春陰や眠る田螺の一ゆるぎ 石鼎

旅先の小さき世帯や田螺煮る 橙黄子

ぬくぬくと老いてねむれる田螺かな 石鼎

薄泥をかむりて老いし田螺かな 石鼎

己が殻に触れて角ひく田螺かな 石鼎

田の面より低き流れの田螺かな 石鼎

白秋
観音の 甍ながめて 帰るころ 早や夕明る 田螺がころころ

ころがりて又ころがりて田螺かな たかし

一つづつ田螺の影の延びてあり たかし

沸沸と田螺の國の静まらず たかし