和歌と俳句

高浜虚子

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西山の山寺にあり春一日

山寺の古文書もなく長閑なり

電燈を下げて土産のさくらもち

慌し花信到りて雨到る

花の雨降りこめられて謡かな

花の雨傘持ちかへて仰ぎ居り

花に消え松に現れ雨の絲

結縁は疑もなき花盛り

落花のむ鯉はしやれもの鬚長し

宴未だはじまらずして花疲れ

花篝燃ゆるが上に浮ける花

砂の上曳ずり行くや櫻鯛

蝶々の高く上るは潦

折りて持てる山吹風にしなひをり

春日野馬酔木の花は尚盛り

縄ぼこり立ちて消えつつ桑ほどく

山寺や巌を這へる藤の花

雪解くる囁き滋し小笹原

山焼の煙の上の根なし雲

紅梅の莟は固し言はず

や御幸の輿もゆるめけん

草萌や百花園主のそぞろなる

園丁の往きつもどりつ草萌ゆる

春山もこめて温泉の國造り

春の水熊野男の渉る