和歌と俳句

前田普羅

ひともとの椎にそそぐや春の雨

春雨や蜷這ひ上る庭の石

淡雪の中に着て居し電車かな

春の雪薮につもりて輝けり

春雪の解くるが如く卒業

雪解や妙高戸隠競ひ立つ

雪解風暁の戸を打ち居たり

春泥や夕刊飛んで地に落ちず

船上ぐる人の声かや春の海

春の海や暮れなんとする深緑

春の田に埃掃き出す坊主かな

幼児の足さぐり得つ春炬燵

われと子と命尊し二日灸

春眠をうつ春霞春あらし

土雛ありとしもなきあぎと哉

菓子を切る包丁来たり雛の宿

ふららこを掛けて遊ぶや神の森

遠き祖の墳墓のほとり耕しぬ

炉塞や一枝投げさす猫柳

炉塞いでしとね並べぬ宿直人

炉塞いで人逍遥す挿木垣

麗かや大荷物をおろす附木売

口とぢて打ち重りつ種俵

種まくや火の見梯の映す水に

種俵大口あけて陽炎へり