和歌と俳句

前田普羅

山吹や根雪の上の飛騨の径

山吹の中の二日を春祭

山吹や諏訪の工女の運動会

花の雨ふりて人来ぬ峠かな

苗田水堰かれて分れ行きにけり

春の雪木津の竹藪ぬらしけり

越中の花菜はさかり雪は白し

春雨や浪あげて居る虻が島

春光や人起きぬ間に椿落つ

煤たれて春立つ窓に幾吹雪

雪を割る人にもつもり春の雪

春の水さして邑知潟見えそめぬ

竹を伐る人にやむなし雪解雨

落葉松に焚火こだます春の夕

春星や女性浅間は夜も寝ねず

春の宵北斗チクタク辷るなり

ひえびえと浅間がすわる春の宵

春星を静につつむ噴煙か

つかの間の春の霜置き浅間燃ゆ

木の芽の香燕々われに翻へる

雉子啼き轍くひこむ裾野径

灯の下に寝しは誰ぞやよべの春

熔岩の瀬に径逡巡とかぎろへり

の下りて色濃し熔岩の盤

浅間なる煙が染むる春の雪