和歌と俳句

前田普羅

蚕時や雪解を渉り相まみゆ

旅人の腰かけてゐる飼屋かな

鮎の瀬に漬けし蚕莚流しけり

鮎の瀬は遠音あぐるや蚕支度

雷鳴つて蚕の眠りは始まれり

祭して雪解雫を潜りけり

谷々に乗鞍見えて春祭

春の炉に足裏あぶるや杣が妻

種俵あげたる飛騨の径かな

飛騨暮るる雪解湿りに蕗の薹

鷹と鳶闘ひ落ちぬ濃山吹

山吹を折りかへしつつ耕せり

山吹や寝雪の上の飛騨の径

ルリイチゲ春の夕をとざし居り

なだれたる祇の径にも瑠璃一華

深山藤風雨の夜明け遅々として

さげて大洞山のあらし哉

ふぢ白し尾越の声の遠ざかる

藤浪に雨かぜの夜匂ひけり

砧石の落花の藤をうち払ふ

風澄むや落花にほそる深山ふぢ

紺青の乗鞍の上に囀れり

さへづりや二筋はしる平湯径

雷とほし頭を垂るる八重桜