和歌と俳句

原 石鼎

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元朝や枇杷を潜りて牛を飼ふ

元日や庭にさかりの枇杷の花

初富士を松原越の家路かな

初富士のくろずみそめて暮れにけり

切火とはかんさびごとや初竃

たきぼこりふはふはとして初竈

具の生海苔御酒にとろりと雑煮かな

箸袋かたへに置きて雑煮かな

数の子と煮豆と皿にとりにけり

数の子や藍濃き鉢に盛り高め

衣紋着し客と鴛鴦飼ふ二日かな

柚の色の一霜づつや初日影

古家や枸橘よりぞ初日影

茶の花の畑の日向や年始客

その中の緑の船や松飾

蒼海や揚船みんな松立てて

新馬尾藻塩ふきたつる鏡餅

遣羽子や午下の温泉宿の長廊下

梅の木と梅の木の間羽子をつく

萬歳の笑みをつくりて舞ひそめぬ

紺絣着て若才蔵たくみなる

瑠璃鶲日ねもす間鳴く二日かな

晴れながら深山颪や三ヶ日

三ヶ日どつと来あそぶ深山鳥

枯枝に日かへし闌けて三ケ日

礼者らし起ちて降りしは初電車

遣羽子や大戸卸して昼の町

初東風を高う揚げたる羽子に見し

読む歌留多月にあがりぬ路地の奥

読初の目に涙来て笑みにけり

読初の眼光すでに紙背かな

覚めぎはに何か初夢見しごとし

軒滴きよらにかゝりとぶさ松

鳥総松雪の底ひの土の中

松過ぎを来てこの人の春着かな

元朝のささなきしばししてやみぬ

元日やまばゆきまでに客座布団

元日の夕日もまこと荘厳に

元日もはや燈が見えて夕焼雲

初日人銀杏落葉を踏んで来る

初日の出護摩焚く天の一方に

初曇り羽根うつ音の日もすがら

初曇り雪曇りとも重なりぬ

そぞろ園に下りたつ屠蘇の主かな

金銀や屠蘇の銚子の蝶の髭

輪飾に壁をいたはる心かな

蓬莱に壁を尊む心かな

白壁を伝うてけふも嫁が君

餅花のしだるる中の小判かな

紅白の餅花なんど神さびて