和歌と俳句

與謝蕪村

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狩衣の袖うら這ふほたる

堂守の小草ながめつ夏の月

山颪早苗を撫て行衛かな

石切の鏨冷やしたる清水かな

白蓮を切らんとぞおもふ僧のさま

手すさびの團画かん草の汁

川狩や帰去来といふ声す也

水晶の山路ふけ行清水かな

石工の飛火流るるしみづ

青梅に眉あつめたる美人哉

ででむしやその角文字のにじり書

関の戸に水鶏のそら音なかりけり

網打の見えずなり行涼かな

蝸牛何おもふ角の長みじか

古井戸やに飛ぶ魚の音くらし

うは風はの流れゆく野河哉

あま酒の地獄もちかし箱根山

愚痴無智のあま酒造る松が岡

水の粉のきのふに尽ぬ草の菴

水の粉あるじかしこき後家の君

昼をのこがれてとまる徳利かな

わくらばの梢あやまつ林檎かな

くれてよらで過行夜半の門

おろし置く笈に地震なつ野

腹あしき僧こぼし行施米哉