居りたる舟に寝てゐる暑さかな
夕がほや武士一腰の裏つづき
雪信が蠅うち払ふ硯かな
ぬけがけの浅瀬わたるや夏の月
瓜小家の月にやおはす隠君子
灸のない背中流すや夏はらへ
殿守のそこらを行や夏の月
賊舟をよせぬ御船や夏の月
木薬のふくろ流るる御祓川
御手打の夫婦なりしを更衣
西行は死そこなふて袷かな
ほととぎす柩をつかむ雲間より
食次の底たたく音やかんこ鳥
短夜や同心衆の川手水
短夜や枕にちかき銀屏風
砂川や或は蓼を流れ越す
窓の燈の梢にのぼる若葉かな
かはほりやむかひの女房こちを見る
細脛に夕風さはる簟
渡し呼ぶ草のあなたの扇哉
つくばふた禰宜でことすむ御祓哉
金の間の人物云はぬ若葉かな