たちやどる 楢の広葉に 吹く風は 手にもならさぬ 扇なりけり
ひさぎ生ふる かたやまかげに 隠ろへて 吹きけるものを 秋の初風
新古今集・夏
ひさぎおふる 片山蔭に しのびつつ 吹きけるものを 秋の夕風
吹き過ぐる このした風の 涼しさに たちぞやすらふ ころもての森
氷室山 あたりは冬の ここちして こずゑの蝉ぞ 夏と告げつる
秋はいさ 尾花葛花 見やわかむ みな緑なる 野辺にもあるかな
夏ふかみ 草吹きわくる 風なくば 辿りやせまし 真間の継橋
夏の野は 咲きすさびたる あぢさゐの 花にこころを なぐさめよとや
夏ふかく 野はなりにけり 沢に出づる こぐれの鹿の せな見ゆるまで
あやふしや みな輪さかまく いは淵を 何のぞくらむ やまとなでしこ
夏ふかく なりぞしにける 難波女が 蘆間の小屋の 隠れゆくまで
夏ふかみ 野原をゆけば 程もなく さきたつ人の 草隠れぬる
秋ちかく 野やなりぬらむ ななくさの 草のすがたの 見えわかれぬる
手にならす あふぎの風に あやなくも 露ぞ零るる 常夏の花
朝夕の わが袖ふりに ゐるちりは 妹うち払へ 常夏の花
濡れ色は 露ばかりにて ありぬべし なにそはあめは やまとなでしこ
夕されば 蓮の浮葉に 風こえて うつしぞかふる 露のしらたま
ともしすと はやまの裾に たちかぬる 我をや妹は 待ち明かすらむ
夏山の 空ひびくまで なく蝉の 木の葉も揺るぐ ここちこそすれ
山彦も こたへやあへぬ 夕づく日 さすや丘辺の 蝉のもろこゑ
夏木立 軒端にしげく なるままに 数添ひまさる 蝉のもろこゑ