和歌と俳句

俊惠法師

ほととぎす 花たちばなは 枯れぬとも 萩咲くまでは 夜離れすなゆめ

ほととぎす ひとこゑにてや 過ぎなまし 花たちばなを やどに植ゑずば

はたけふに 麦の秋風 吹きたちぬ 早うちとけね 山ほととぎす

あぢきなし われのみ待たじ ほととぎす 来鳴かば誰も 聴かむものゆゑ

おもへはな 山ほととぎす よりほかに 誰かは聴きつ 我に名のらむ

あまひこは こたへ伝へよ あしひきの 山ほととぎす ほかに鳴くなり

雲の上に 名のりて過ぐる ほととぎす 大内山や ありすなるらむ

ほととぎす 御津の浜辺に 待つこゑを 比良の高嶺に 鳴き過ぎぬとや

ほととぎす ほのめく夜半の ひとこゑを 待たぬやどにや 近く聴くらむ

言づてむ 人はなけれど ほととぎす やよやしばしと 云はれぬるかな

ほととぎす 夢に聴くやと まどろめば なれは寝覚めを 待ちけるものを

軒ちかく 名のるとならば ほととぎす またも聴かなむ 程をかたらへ

ほかに鳴く 山ほととぎす 言問はむ 我にまさりて 人は待つかと

みやま出では まづおとづれよ ほととぎす けふはたづねて 我ぞ聴きつる

待たれつつ まれに鳴けども ほととぎす かたらふこゑに えこそ恨みね

ほととぎす おのかねやまに たづね来て 聴くをりさへの ひとこゑやなぞ

なつかしき 花たちばなに 飽かずして いとど語らふ ほととぎすかな

さみだれの 軒のしづくの つくづくと 待つをも知らぬ ほととぎすかな

うきながら なほぞ待たるる ほととぎす 人づてにのみ 聞くにつけても

心あらば 今も鳴かなむ ほととぎす 雲間の月に 影や見ゆると