冬くれば 隠れざりけり なにはめが 蘆のあなたの こやのすみかも
いつしかと ひとめも草も 枯れねとや おろす嵐の 今朝ははげしき
今朝よりは 筧の水は 音もせで 戸ぼそを叩く 風ぞはげしき
月をこそ あはれと宵に ながめつれ くもる時雨も 心すみけり
かきくらし かたをか山は しぐるれど とほちの里は 入日さしけり
おとづれは あはれそへよと まきの板に かねて時雨や 契りおきけむ
藻塩草 敷津の浦の ねざめには 時雨にのみや 袖は濡れける
かのほさす 楢の枯葉の むら時雨 あはれはまきの 音ばかりかは
まきの板に いつもさこそは ふる雨の などや時雨は 音のみにしむ
おもはずに 時雨は過ぎぬ こかげとて たのむ木の葉ぞ 降りもを止まぬ
月影の さしくるおなじ 板間より 音して洩るは むら時雨かも
名残をば 草葉のうへに 留めおきて 時雨の雲ぞ つゆも残さぬ
山めぐる 時雨のあとを 見渡せば やがてさしゆく 夕づくひかな
夕づくひ さすや岡辺を 隔てつつ このもかのもに 時雨ふるなり
小夜更けて 人はしづまる まきの戸に 時雨のあしぞ 高くなりゆく
小夜更けて うち訪るる たびごとに 我が袖さへぞ むら時雨する
白菊を なれいろいろに 染めおきて 今朝など霜の おき隠すらむ
まきの板に もみぢ乱れて 散る夜半は いつかは夢の やすく見えける
けふ見れば あらしの山は おほゐ川 紅葉ふきおろす 名にこそありけれ
音羽山 越えつつゆけな 薄く濃く 錦を袖に をりぞかへつる