和歌と俳句

俊惠法師

軒つたひ すだくは ささがにの 糸もて貫ける たまかとも見る

あしすだれ ひまより潜る 夏虫は なれし沢辺や 思ひ出づらむ

小夜更けて 竹のそのふに 灯す火は 枝をかぞふる なりけり

さもこそは 草の枕を かりて寝め 主がほにも 灯す螢か

辿り行く いたたの橋は くちめ多み かずかず灯せ 夜半の夏虫

これやさは あくがれにける たまかとて ながめし沢の 螢なるらむ

小夜更けぬ 心は先に 急げども ともす螢に えこそ離れね

まどならぬ 谷のせせらぎ 踏みみつる をりもうれしな ともす螢は

あかつきに はやなりぬらむ 岩間もる 水のしらたま 音の涼しき

滝の糸の 風に乱るる 音きけば 枕に秋ぞ 来るここちする

岩そそぐ 谷の清水に うちそひて 秋も袂に 洩りぞ来にける

して たつた川原の 柳かげ 帰るもの憂き 夕まぐれかな

あすか川 あけは憂き世や かはるとて こよひみぎはに みそぎをぞする