和歌と俳句

曽禰好忠

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

後拾遺集
三島江につのぐみわたる蘆の根に一よのほどに春めきにけり

あなし川ふる山わけてくる春のしるしと今朝は水ぞぬるめる

鳴瀧の岩間の氷解けぬらし春の初風そよに吹くらし

峰の日や今朝はうららにさしつらむ軒の垂氷のしたの玉水

金葉集詞花集
雪消えばゑぐの若菜も摘むべきに春さへはれぬみ山べの里

雪見えし峰のあらしの吹くなべに今朝山がはの水かさまされり

心より春のあらしにさそはれて解くる氷はいづちなるらん

山の峡霞みわたりしあしたより若菜摘むべき野べをしぞ思

かご山の瀧の氷も解けなくに吉野の嶽は雪消えにけり

鴨のゐる入江の氷うすらぎて底の水屑もあらはれぞゆく

勝間田の池の氷は解けしよりやすの浦とぞ鳰鳥もなく

須磨のあまも今は春べと知りぬらしいづくともなくなべてめり

春の野にむら消え残る雪よりもいまはいつまでふべき我身ぞ

檜原もる布留の社の神やつこ春きにけりと知るらめやそも

あらためし神も幣させるかと澤べに鶴の群れゐたるかな

煙かとよもの山べに霞みゆくいづれの木の芽もえぬなるらん

うち霞みたづきも見えぬ春の野に聲を知れとや のなく

根芹摘む春の澤田に下り立ちて衣の裾の濡れぬまぞなき

みやつこぎおふる垣根を春立てば深き緑に萌えわたりける

新古今集・恋
片岡の雪間にきざす若草のはつかに見えし人ぞ戀しき

新勅撰集・春
朝なひに棹さす淀の川をさも心解けては春ぞみなるる

朝日さす今朝の雪消に水まさり身をうき橋のゆくゑしら波

続後撰集・雑歌
浅緑野べの霞にうづもれてあるかなきかの身をいかにせん

にほはねどほを笑む梅の花をこそわれもをかしと折りてながむれ

春ごとに澤べにおふるの根の年とともにぞ我はつみつる

梅津川岩間の波のたちかへり春の花かとうたがはれつつ

たが染めし色にかあるらん春をへて目なれず見ゆる松の緑は

花見むと命も知らず春の野に萩の古根を焼かぬ日ぞなき

我見ても春はへぬるをなよ竹のそれよりさきにいくよへぬらん

山里の梅のこ原に春ばかりいほりておらむ花も見がてら