わぎもこが衣きさらぎ風寒みありしにまさる心ちかもする
ささ水にすがきさぼせり春ごとにゑりさす民のしわざなるべし
梅の花こよひあらしの止まざらば嘆きてのみもあかすべき哉
我身をば見る人すててすさめぬをあはれにもまた呼子鳥かな
ゆふだすき花に心をかけたれば春の柳のいとまなみこそ
山かげのうつぎ垣根に消え残る雪をぞ花によそへつつ見る
宮木こるおのの篠原見わたせばめもはるばると浅緑なり
あずさ弓春の霞みてへだつれど入るまの山の峰ぞさやけき
わが宿の板井の水やぬるからん底のかがづも聲すだくなり
松が崎いつも緑の色なるをいとどし春の霞立ちつつ
我宿のもとあらの櫻咲かねども心をつけて見ればたのもし
小鯛つる刈る藻のあまも春くれば浦浦ごとにながめをぞする
のぼり船東風吹く風を過すとて世をうしまどになげきてぞふる
煙立つ春の浦浦みるときはまだ見ぬあまのありかをぞ見る
あふことを肩身をせばみ春の野の若菜につけて年をつみつる
色かへず見ゆる讃岐の松山も春は緑の深さまされり
新古今集
荒小田の去年のふる跡のふる蓬いまは春べとひこばえにけり
春山に木きるきこりの腰にさすよきつつきれよ花のあたりは
絶ゆる世もあらじとぞおもふ春をへて風にかたよる青柳の絲
かりがねぞ鳴き帰るなるよのなかを憂しと見ながら今は厭はじ
はるばると浦浦煙立ちのぼるあまのひよりに藻くづ焼くかも
花のをりいきたらば来んみ吉野の萩の焼生はなべて見つるを
山櫻はやも咲かなん吹く風に峰の白雲立つかとも見む
わさ苗を宿もる人にまかせをきて我は花見にいそぎをぞする
春雨のふるのみ山の花見にと三笠の山をさしてこそゆけ
花見ると妹が早稲田に手もふれでふる跡ながらに暮すころかな
なき帰る雁の涙のつもりをや苗代水に春はせくらん
冬がれのつかれの駒も放ちてん岡べの小笹はえぬとならば