和歌と俳句

後撰和歌集

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小野小町
いはのうへに旅寝をすればいとさむし音の衣を我にかさなむ

返し 遍昭
世をそむく苔の衣はただひとへかさねばうとしいざふたりねむ

せかゐのきみ
逢ふ事の年きりしぬるなげきには身のかずならぬものにぞありける

左大臣実頼
あだ人もなきにはあらず有りながらわが身にはまだ聞きぞならはぬ

よみ人しらず
宮人とならまほしきを女郎花のべより霧のたちいでてぞくる

大輔
わが身にもあらぬわが身の悲しきに心もことに成りやしにけむ

よみ人しらず
世の中を知らずながらも津の国のなには立ちぬるものにぞありける

よみ人しらず
よとともにわが濡れ衣となるものはわぶる涙の着するなりけり

大輔
憂けれども悲しきものをひたふるに我をや人の思ひすつらむ

返し よみ人しらず
悲しきも憂きも知りにしひとつ名をたれをわくとか思ひすつべき

大輔
道しらぬものならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり

返し 敦忠朝臣
しらかしの雪もきえにしあしひきの山路を誰かふみ迷ふべき

よみ人しらず
いふ事のたがはぬ物にあらませば後うき事ときこえざらまし

伊勢
おも影をあひ見しかずになす時は心のみこそしづめられけれ

伊勢
ぬきとめぬ髪のすぢもてあやしくも経にける年の數をしるかな

よみ人しらず
なみかずにあらぬ身なれば住吉の岸にもよらずなりやはてなむ

よみ人しらず
つきもせず憂きことのはの多ほかるをはやく嵐の風もふかなむ

よみ人しらず
島がくれ有磯にかよふあしたづのふみおく跡は浪もけたなむ

伊勢
身ははやくなきもののごと成りにしを消えせぬ物は心なりけり

よみ人しらず
むつましきいもせの山の中にさへ隔つる雲のはれずもあるかな