和歌と俳句

後撰和歌集

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高津内親王
なほき木にまかれる枝もあるものをけをふききすをいふがわりなさ

嵯峨后
うつろはぬ心のふかく有りければここらちる花春にあへるごと

よみ人しらず
玉たれのあみめのまよりふく風のさむくはそへでいれむ思ひを

よみ人しらず
白浪のうちさわがれて立ちしかば身をうしほにぞ袖はぬれにし

返し
とりもあへず立ちさわがれしあだ浪にあやなく何に袖のぬれけむ

よみ人しらず
たたちもたのまざらなん身にちかき衣の関もありといふなり

よみ人しらず
あはぬまに恋しき道もしりにしをなどうれしきに迷ふ心ぞ

よみ人しらず
いかなりしふしにか糸の乱れけむ強ひて繰れども解けずみゆるは

賀朝法師
身なくとも人にしられし世の中にしられぬ山をしるよしもがな

返し、もとのをとこ
世中にしられぬ山に身なくとも谷の心やいはておもはむ

よみ人しらず
おとにのみききてはやまじ浅くともいざ汲みみてん山の井の水

よみ人しらず
しでの山たどるたどるも越えななでうき世の中になにかへりけむ

よみ人しらず
かずならぬ身をもちににて吉野山高き歎を思ひこりぬる

返し よみ人しらず
吉野山こえん事こそかたからめこらむ歎のかずはしりなむ

武蔵
かずならぬ身におくよひの白玉は光見えさす物にぞ有りける

よみ人しらず
難波潟みぎはのあしのおいがよに怨みてぞふる人の心を

よみ人しらず
わするとは怨みざらなむはしたかのとかへる山のしひは紅葉す

よみ人しらず
をちこちの人めまれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君

返し よみ人しらず
身をうしと人しれぬ世を尋ねこし雲のやへ立つ山にやはあらぬ

土左
あさなけに世のうきことをしのびつつながめせしまに年はへにけり