藤原のかねもち
もろともになきてとゞめよ きりぎりす 秋のわかれはをしくやはあらぬ
平もとのり
秋霧のともにたちいでて別れなば はれぬ思ひに恋ひやわたらん
しろめ
いのちだに心にかなふものならば なにか別れのかなしからまし
源さね
人やりの道ならなくに おほかたは いきうしといひていざかへりなん
藤原かねもち
したはれて来にし心の身にしあれば 帰るさまには道も知られず
貫之
かつこえて別れも行くか 逢坂は人だのめなる名にこそありけれ
藤原かねすけ朝臣
きみがゆく越の白山 知らねども ゆきにまにまにあとは尋ねん
僧正遍昭
夕ぐれのまがきは山と見えななむ 夜はこえじとやどりとるべく
幽仙法師
別れをば山の櫻にまかせてん とめむとめじは花のまにまに
僧正遍昭
山かぜに櫻ふきまきみだれなん 花のまぎれに君とまるべく
幽仙法師
ことならば君とまるべく匂はなん 帰すは花の憂きにやはあらぬ
兼芸法師
あかずしてわかるゝ涙たきにそふ 水まさるとや下は見ゆらん
貫之
秋はぎの花をば雨にぬらせども 君をばましてをしとこそ思へ
兼覧王
をしむらん人の心を知らぬまに 秋のしぐれと身ぞふりにける
みつね
わかるれどうれしくもあるか こよひより あひ見ぬさきになにを恋ひまし
よみ人しらず
あかずしてわかるる袖の白玉を 君がかたみとつつみてぞゆく
限りなくおもふ涙にそぼちぬる袖はかわかじ あはん日までに
かきくらしことは降らなん 春雨にぬれぎぬきせて君をとゞめん
しひて行く人をとゞめむ さくら花いづれを道とまどふまでちれ
貫之
むすぶ手のしづくににごる山の井の あかでも人に別れぬるかな
友則
下の帯の 道はかたがたわかるとも ゆきめぐりてもあはんとぞ思ふ