和歌と俳句

凡河内躬恒

離別
かへる山なにぞありてあるかひは来てもとまらぬ名にこそありけれ

離別
よそにのみ恋ひやわたらん白山のゆきみるべくもあらぬわが身は

離別
わかるれどうれしくもあるかこよひよりあひ見ぬさきになにを恋ひまし

古今集・羇旅
きえはつる時しなければ越路なるしら山の名は雪にぞありける

古今集・羇旅
夜をさむみおく初霜をはらひつつ草の枕にあまたたびねぬ

古今集・恋
初雁のはつかに声をききしより なかぞらにのみ物を思ふかな

古今集・恋
秋霧のはるゝ時なき心にはたちゐのそらも思ほえなくに

古今集・恋
ひとりして物を思へば秋のよの稲葉のそよといふ人のなき

古今集・恋
夏むしをなにかいひけん心から我も思ひにもえぬべらなり

古今集・恋
君をのみ思ひねにねし夢なれば我が心から見つるなりけり

古今集・恋
わが恋はゆくへも知らずはてもなしあふを限りと思ふばかりぞ

古今集・恋
我のみぞかなしかりける彦星もあはですぐせる年しなければ

古今集・恋
頼めつつあはで年ふるいつはりにこりぬ心を人は知らなむ

古今集・恋
長しとも思ひぞはてぬむかしよりあふ人からの秋のよなれば

古今集・恋
冬の池にすむにほどりのつれもなくそこに通ふと人に知らすな

古今集・恋
ささの葉におく初霜の夜をさむみしみはつくとも色にいでめや

古今集・恋
かれはてん後をば知らで夏草のふかくも人の思ほゆるかな

古今集・恋
わがごとく我を思はむ人もがなさてもやうきと世を心みむ

古今集・恋
吉野川よしや人こそつらからめはやく言ひてしことは忘れじ

古今集・哀傷歌
神な月しぐれにぬるるもみぢばはただわび人の袂なりけり

古今集・雑歌
風ふけどところも去らぬ白雲は世を経ておつる水にぞありける

古今集・雑歌
世をすてて山に入る人山にてもなほうき時はいづち行くらん

古今集・雑歌
今更になに生ひいづらん竹の子のうき節しげきよとは知らずや

古今集・雑歌
水の面におふるさ月の浮草のうき事あれや根をたえてこぬ

古今集・雑歌
身をすててゆきやしにけん思ふより外なる物は心なりけり

古今集・雑歌
君が思ひ雪とつもらばたのまれず春より後はあらじとおもへば

古今集・雑躰俳諧歌
むつこともまだつきなくに明けぬめり いづらは 秋のながしてふ夜は

古今集・雑躰俳諧歌
蝉の羽のひとへにうすき夏衣 なればよりなむものにやはあらぬ

古今集・雑躰俳諧歌
わびしらにましらな鳴きそ あしひきの山のかひある今日にやはあらぬ